なぜデンマークには黒い車が多いのか(後編)
兵庫三菱Web編集局 駐デンマーク | 記事 : A.Nabeshima
配信日 : 2016年7月14日 08時00分 JST
国によって車の人気色はそれぞれ違うようです。「デンマークの車がなぜ黒いのか」という業界では国際的な疑問と言えど一般には超マイナーな問いを掘り下げました。前回は「乗り換えの際に高く売れる」という経済的な理由と、「黒い色は豪華さや権力を象徴する」という心理的な理由を挙げましたが、どちらもいまいち納得できなかったので他の理由を探ってみます。
民主主義の精神から【社会的背景】
デンマークでは、車だけでなく、家具や雑貨、服も黒が人気です。特に若い女性は黒が大好きで、上から下まで真っ黒というスタイルが少なくありません。顔だけ見てもどこの国出身かわからないヨーロッパ人ですが、全身真っ黒のスタイルであればデンマーク人というジョークが生まれるほど。
スカンジナビアファッションを研究するファッションブロガーSanneさんは、「デンマーク人は黒を着る」という記事で、以下のような社会的な背景が大きく影響していると説いています。
①平等主義
貧富の差が少ないデンマーク。機会の平等が進んでいるせいか、「他より抜きん出る」ということをあまり好みません。別で聞いた話ですが、デンマークには「ジャンテロウの教え」という「自分が他者より優れている」というようなエゴを戒める教訓が浸透しているそうです。内に秘める熱いものがあっても、表には出さない。そんな精神が自然と黒を選ばせるとか。
②女性の社会進出
貧富の差だけでなく、男女平等も進むデンマーク。女性の社会進出は当たり前で、家庭と職場を行き来する人が多いなか、黒い服であればカジュアル過ぎず、また汚れも目立ちません。
③合理主義
社会制度や公共サービスを見ても、「無駄がなく、合理的」がモットーのデンマーク。何でも合う黒であれば、忙しい朝に「何を着ようかな」と悩む10分を省略することができます。
④民主主義
平等主義と似ていますが、「全員の参加・合意」は、この国の福祉やユニバーサルデザインを生み出しました。「どんな人でも使える・似合う」という精神が、家具やファッションにも浸透しており、それゆえに万人が使える黒い製品が多いのだとか。
どちらかというと大人しく、シャイで他人と競うことを避ける傾向にあり、華美装飾の少ないデンマーク人。社会的な背景が影響しているというこれらの理由は、断言できませんがあながち間違ってはいないように感じました。
【科学的背景】気候
インド出身の留学生Ankitさんもデンマークに来て同じ疑問を持ち、その理由を科学的に論じています。
デンマーク人が黒を好む理由は、ずばり気候によるもの。夏には45℃を超えるAnkitさんの故郷インドでは、黒は不人気で明るい色を好むそう。宇宙飛行士のスーツが銀色なのは、光を反射すると、宇宙服の中の温度が上がらなくて済むから。黒色は逆に光を吸収し、中の温度を上げる性質を持ちます。冬の日照時間が極端に短く、気温も低いデンマーク人は、自然と自分の体を温める黒い色を選択するのだろうというロジックを紹介していました。
blogging Denmark「dark-color-obsession-a-scientific-side」
いかがでしょうか?
今はデンマークも空が青いので、黒い車ばかりだと暑苦しく違和感を感じますが、冬になると意外としっくりくるのかもしれません。
デンマーク人が黒い車を好む理由。経済的、心理的、社会的、科学的な4つの理由を見つけました。
縦に長く気候が様々な日本でも、暗い北陸や東北と、明るい九州や沖縄の人気色を調査するとおもしろいかもしれません。または、東京のような大都会と田舎、関東と関西でも、文化や気候の違いから好みが分かれるでしょう。
ただ、デンマークで車の人気カラーを調査をしたフォードは、「デンマークで黒い車が人気だからと言って、黒い車ばかりを売り込むのは浅はかである」と、敢えてカラフルな車を提案していくようです。